災害時、迅速な避難が被害を最小限に抑える鍵となります。しかし、多くの人々が避難を遅らせてしまう理由の一つに「正常性バイアス」があります。それを乗り越えるためのBCP(業務継続計画)の訓練の重要性について解説します。
正常性バイアスとは
正常性バイアスは、予想外のリスクが発生した場合に、状況を過小評価してしまう人間の心理です。
思考実験:あなたならどうしますか?
(動画の方が、臨場感があります。火災警報が流れますので、ご注意ください)
以下の状況を想像してください。
あなたは、ショッピングセンターで買い物中に、非常ベルが鳴り響きました。あなたは、どのような行動を取りますか?
- 点検だと思うので、何もしない
- 周囲の人が避難しないので、大丈夫だ
- 煙が出ていないので、大丈夫だ
- 屋外に避難した
私は、多くのセミナーで、この質問をしますが、8~9割の方が、(1)~(3)と回答します。BCPに関係するセミナーでも、1~2割の方しか避難すると回答しません。
「正常性バイアス(Normalcy bias)」とは、自然災害など予想外のリスクが発生した場合に状況を過小評価してしまう心の働きと、定義されています。つまり、災害が迫っていても、「大丈夫」と勝手に心で思い込むということです。
正常性バイアスの災害事例
では、実際に「正常性バイアス」で、多くの方が亡くなった火災の事例を紹介したいと思います。
韓国 大邱地下鉄火災事故(2003年)
- 発生日時:2003年2月18日午前9時53分頃
- 場所:韓国 大邱(テグ)市の地下鉄中央路駅
- 被害:死者192名、負傷者148名
- 事件の経緯
- 中央路駅に到着した地下鉄の車内で、精神疾患の男性がガソリンを撒いて火をつけた。
- 火は急速に広がり、当該車両が燃えた。
- その数分後に、反対側のホームに別の電車が到着した。
- 事件発生時に撮影された動画では、反対側の車内の乗客が、口や鼻をふさいで体内への煙の侵入を防いでいました。しかし、ほとんど全員が車外には出ようとせず、携帯電話を操作する人さえいたことが確認されています。
- 最終的に反対側の電車にも火がつき、駅構内全体が燃えてしまった。
この事故では、反対側のホームに到着した電車の乗客が、明らかな危険のシグナルがあったにもかかわらず、避難しなかったことが大きな被害につながりました。
東日本大震災(2011年)
地震発生から津波到達まで約1時間あり、津波警報が発令されたにもかかわらず、多くの人が「自分は大丈夫」と思い込み、避難が遅れた事例がありました。
BCPの訓練で「正常性バイアス」を克服する
西日本豪雨(2018年)の対照的な2つの事例
岡山県倉敷市真備町
51名が犠牲になった(約9割が高齢者、約9割が自宅で亡くなる)。
実際に、避難を拒否する高齢者の記事があります。
岡山県総社市下原地区
自主防災組織の活動により350人全員が避難、死者ゼロでした。定期的な訓練の実施が功を奏しました。訓練日が雨になっても訓練は決行していてそうです。
正常性バイアスを克服するポイント
これらの事例からもわかるように、「正常性バイアス」を克服する以下のポイントが重要です。
(1)災害のリスクの理解。水害、津波、高潮などの危険性を事前に把握しておく。
(2)BCPを作成と避難タイミングの決定。警報や注意報をトリガーとした避難行動の開始。
(3)訓練の定期的な実施。全員で手順等を理解し、避難への心理的な抵抗を減らす。
(4)前向きな姿勢の維持。避難が「空振り」でも、実地訓練と考える寛大さが重要。
正常性バイアスを理解し、適切な準備と訓練を行うことで、災害時に迅速な避難行動を取ることができます。自分の命、大切な人の命を守るために、この知識を共有されることを期待します。
この記事を執筆している今も、台風10号が過去最強クラスで九州に上陸しました。正常性バイアスを理解し、この記事を参考に、迅速に避難できることを祈念しております。