水害対策の盲点(Part-1) 情報収集の重要性

水害において過去の教訓が活かされず、高齢者施設等で甚大な被害が出ています。その原因と対策について2回に分けて説明します。第1回は、情報という切り口で、水害リスクの情報と避難を決定するための情報の重要性についてお話します。また、避難確保計画とBCPの関係についても書いています。

目次

増加する水害リスク

水害の発生は、確実に増えています。国土交通省の「水害レポート2023」では、約半世紀で水害(ここでは1時間当たり50mmを超える件数)が1.5倍に増えています。確実に豪雨は増えているのです。

1時間雨量が50mmとは、いかのような状況になります。

1時間雨量(mm)雨の強さ (予報用語)人の受けるイメージ人への影響屋外の様子車に乗っていて
50~80非常に激しい雨滝のように降る。 (ゴーゴーと降り続く)傘が全く役に立たなくなる。水しぶきで、あたり一面が白っぽくなり、視界が悪くなる。車の運転は危険。
80~猛烈な雨息苦しくなるような圧迫感がある。恐怖を感じる。

1000年に一度の水害に備える「水防法」の強化

このような状況を踏まえて、洪水や高潮に備えるために水防法は、以下の変革を続けています。後述する事例などもあり、避難確保計画の作成や訓練の報告が義務化されています。

  • 1949(昭和24)年 水防法が制定。
  • 2001(平成13)年 浸水想定区域の指定を新設。
  • 2005(平成17)年 下線情報発信を中小河川へも拡大。
  • 2015(平成27)年 従来の計画規模(百年に1度)から想定し得る最大規模(千年に1度)に想定を変更
  • 2017(平成29)年 高齢者施設等の要配慮者利用施設は、避難確保計画の作成と避難訓練の実施が義務化
  • 2021(令和 3)年 訓練結果の報告が義務化

また、前回の記事でも書きましたが、2021(令和3)年に災害対策基本法が改正され、警戒レベルが変更されました。これにより警戒レベル3が、「避難準備・高齢者等避難開始」が「高齢者等避難」になりました。

高齢者施設での水害被害の事例

【事例1】2016(平成28)年8月 台風10号

岩手県岩泉町の認知症高齢者グループホームで入所者9名が亡くなりました。

施設の職員が、このときの警戒レベル3の避難準備情報(現在の高齢者等避難)が発令されたことを知っていたが、高齢者が避難を始める情報だと認識していませんでした。また、避難訓練を実施していたが、水害は想定していませんでした。

この事例については、2016年台風10号の教訓を活かせ! 早期避難の確実な判断を!の記事を参考にしてください。

【事例2】2020(令和2)年7月 熊本豪雨

熊本県球磨村の特別養護老人ホームで入所者14名が亡くなりました。

土砂災害の避難確保計画は作成され訓練も実施されていました。これまで浸水被害がなかったので、水害は想定していなかった。また、警戒レベル3の高齢者等避難は、災害前日の17時に発令されましたが、避難に役立てられませんでした。その後、警戒レベル4の避難指示が3時30分に発令されましたが、午前4時ごろ、幹部は電話で「もう少し様子を見よう」と職員に伝えました。

この事例について詳しく知りたい方は、下記のホームページを参考にしてください。

避難確保計画とBCPで実際に備えるべきこと

水害リスク(洪水、土砂災害、高潮、津波)のある入所・通所の施設・事業所は、避難確保計画の作成と訓練が義務化されています。避難確保計画は、その名のとおり災害から避難することがメインであり、避難後の業務継続はBCP(業務継続計画)がメインになります。水害等のBCPについては、避難確保計画を別紙として参照することで、BCP本文の記述を削減することができます。

さて、先の事例からわかることとして、避難確保計画とBCPで重要となる情報は、以下の3点になります。

  • 災害リスクの情報。災害リスクを正しく把握できなければ、その災害に対する準備が完全に欠落してしまい、避難等の対策が充分講じられないことになります。
  • 災害状況の情報の収集と判断。どの情報で避難を開始するかを明確にし、確実に避難を開始しなければなりません。
  • 訓練による計画の周知と改良。避難確保計画もBCPも重要なのは、訓練を実施して、計画の内容の熟知と、改善点の発見と改良が重要になります。

特に、事例2からもわかるように、幹部の災害に対する認識が非常に重要になります。しかし、人間の心理面が、避難の判断を躊躇させることを次のPart2「大丈夫という心理に負けない!」でお届けします。

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