能登豪雨を事例に、水害時の避難確保計画や、能登豪雨を事例にしたBCPの机上訓練について、5回で連載したいと思います。今回は、9月の能登豪雨が、どのような豪雨だったかを解説します。線状降水帯が、なぜ発生し、短時間に、どの程度の雨が降り、警報がいつ発令され、何時間で洪水が発生したかを学びます。この知識をもとに第5回目で能登豪雨を用いた机上訓練を実施します。
➊避難確保計画とは
➋避難確保計画とBCPの違い
➌能登豪雨の実態
➍避難確保計画の訓練
➎能登豪雨を用いた机上訓練
線状降水帯とは
線状降水帯とは、何でしょうか?
気象庁は、次のように定義しています。
次々と発生する発達した雨雲(積乱雲)が列をなした、組織化した積乱雲群によって、数時間にわたってほぼ同じ場所を通過または停滞することで作り出される、線状に伸びる長さ50~300km程度、幅20~50km程度の強い降水をともなう雨域を線状降水帯といいます。
絵で表すと、次のようになります。
能登豪雨では、どのような背景で線状降水帯が発生したのでしょうか?
ウェザーニュースのホームページでは、以下のように解説しています。台風が南方から湿った空気(オレンジ色の矢印)を大量に送り込み、秋雨前線の北側(図からはみ出ていますが、強力な低気圧)から秋の冷たい空気(青色の矢印)が流れ込み、秋雨前線上の低気圧のところでぶつかりあい、大量の雨を降らしました。前線と低気圧の移動がゆっくりだったため、大量の雨が降り続きました。
降雨量とは
能登豪雨では、どれくらいの雨が降ったのでしょうか?
先のホームページに以下のように書かれています。1時間で121mmの雨が降ったことがわかります。21日の8時~11時の3時間で222mmの雨が降り、輪島市の9月1か月の平均雨量215mmを越えました。
では、1時間に121mmの雨が、どのような雨でしょうか?
気象庁では、雨の降り方を以下のように説明しています。1時間の雨量が、50~80mmの雨を非常に激しい雨と呼びますし、80mm以上の雨を猛烈な雨と呼んでいます。80mmでも視界が悪くなります。
能登豪雨の降水量
では、実際の降雨量は、どうなっていたのでしょうか?
1時間毎の降雨量をグラフにすると以下のようになります。先の降雨量と違うのは、先の数値は、10分単位で集計しているためです。9~11時の間、80mm以上の猛烈な雨が、2時間降り続いています。
このように線状降水帯が発生し、凄い雨が降った時に、どのように警報がでたかを、上記のグラフに示しています。結論から言うと、台風による洪水と違い、非常に短時間で警戒レベルが上がり、高齢者等避難が出てから洪水になるまで4時間半でという短時間でした。そのため、避難確保計画を事前に作成し、充分に訓練し、短時間で避難できないと避難が厳しいと思います。
警戒レベル2:注意報(自ら避難行動を確認)
大雨の注意報が前日9月20日の16:18に大雨注意報が出ました。避難確保計画の標準的な手順では、注意報で避難の準備を行います。例えば、体制や手順を再確認します。
警戒レベル3:警報(高齢者等避難。危険な場所から高齢者等は避難)
当日9月21日の6:26に大雨警報が出ましたので、高齢者を安全な場所、例えば、施設の上層階へ垂直避難するか、施設外の安全な場所へ水平避難することになります。
警戒レベル4:警戒(避難指示。危険な場所から全員避難)
警報が出たあと、34分後の7:00に土砂災害の警戒情報が発令され、避難指示が出されました。そのため、全員避難が必要になりました。30分では、普通は避難が完了しませんが、避難を急がなければなりません。
警戒レベル5:特別警報(緊急安全確保。命の危険 直ちに安全確保!)
約4時間後の10:50に大雨の特別警報が発令されました。このあたりで河川が氾濫しています。
洪水の実際(動画)
実際の洪水がどうだったのか、幾つかの動画で確認してみたいと思います。
テレ東BIZ
「心が折れた」復興に追い討ちをかけた能登豪雨から見えてきた課題【ガイアの夜明け】
朝日新聞デジタル
【能登豪雨】被害甚大な輪島・町野地区、その時何が 住民たちの記録
NHK(YouTubeを直接埋め込めないため、リンクにしました)
【何が起きたのか】『なぜまた能登が』記録的大雨で土砂崩れが多発 仮設住宅も浸水 孤立する集落も 震災
まとめ
能登豪雨は、能登地震から1年も経たないうちに豪雨が被災地を襲ったことで注目を集めていますが、今回の解説にあるように、豪雨として考えても、過去の線状降水帯による豪雨よりも短時間で集中的に非常に激しい被害が出ています。警報(警戒レベル3:高齢者等避難)が出てから、約4時間で氾濫(警戒レベル5:緊急安全確保)が起こっており、短時間で避難が実施できないと、逃げ遅れたことを動画でも紹介しました。幸いにも、介護・福祉の4つの施設・事業所で浸水しましたのが、人的被害はありませんでした。水害のリスクがある施設・事業所の皆様が、このような状況下で避難できるかは、第5回目の机上訓練で確認していただければと思います。