能登豪雨から考える水害対応(1) 避難確保計画とは

2024年9月22日に発生し、15名の死者が出た能登豪雨から2か月が過ぎました。この能登豪雨を事例に、水害時の避難確保計画や、BCPの机上訓練について、5回で連載したいと思います。避難確保計画とは、水害(洪水、土砂災害)や高潮、津波のリスクがある入所系や通所系の施設・事業所で作成が義務付けられています。第1回は、避難確保計画が義務付けられた経緯と、避難確保計画とは、なにか?について、お話しします。

  • 避難確保計画とは ← 今回は、ココ
  • 避難確保計画とBCPの違い
  • 能登豪雨の実態
  • 避難確保計画の訓練
  • 能登豪雨を用いた机上訓練リスト
目次

水害激甚化

近年、豪雨が増えてきていると思いませんか?

国土交通省の「水害レポート2023」では、下図のように豪雨の回数が、50年前に比べ約1.5倍に増加していると書かれています。年ごとに変動はあるものの赤い線で表せるように、この50年間で明確に増加してきています。このグラフは、豪雨の回数で書かれていますが、グラフの上部に大規模な水害を示しています。この大規模な水害も50年間で増えてきています。

水防法の強化

2000年以降、大勢の方が亡くなる水害が発生する度に、水防法が強化、改定されてきました。

水害名死者数水防法の改正
2000年
(H12)
東海豪雨愛知県 他10名2002年(H14) 浸水想定区域を指定・公表
2014年
(H26)
平成26年
8月豪雨
広島県 他91名2015年(H27) 想定最大規模降雨(L2)に引き上げ
2016年
(H28)
台風10号岩手県84名2016年(H28) 厚生労働省 非常災害対策計画
2017年(H29) 避難確保計画や避難訓練実施を義務化
2020年
(R2)
熊本豪雨熊本県27名2021年(R3) 市町村長への訓練結果の報告を義務化

水防法の改正
2002(H14)年 浸水想定区域の指定と、市町村によるハザードマップの作成・公表が法制化されました。
2015(H27)年 洪水や高潮のハザードマップの想定が「100~200年に1度」から「1000年に1度」に引き上げられました。
2017(H29)年 従来、努力義務であった避難確保計画の作成、訓練の実施が義務化されました。
2021(R3)年  市町村長へ避難確保計画の訓練結果を報告することが義務化されました。

水防法とは別に厚生労働省が水害対策を実施しました。このあと、コロナを機にBCP(業務継続計画)の作成が義務化されました。
2016(H28)年 非常災害対策計画(非常災害に関する具体的な計画)の策定が通達されました。

避難確保計画とは

避難確保計画とは、どのような計画なのでしょうか?

避難確保計画については、国土交通省が以下のように定義しています。

避難確保計画

浸水が想定される地域における社会福祉施設、学校、医療施設等の要配慮者利用施設では洪水時等における円滑かつ迅速な避難の確保を図るため、避難確保計画等の作成など、水害に備えた対応が必要となります。

つまり、避難確保計画とは、水害などから要配慮者(高齢者、障がい者、子供など)を避難させるための手順や訓練などの備えを言います。

では、どのような施設・事業所が避難確保計画の対象になるのでしょうか?

介護・福祉事業所の中で避難確保計画の対象となるは、以下の条件になります。

  • 入所系、通所系の施設・事業所が対象です(訪問系、ケアマネジャーは対象外)。例えば、老人福祉施設、有料老人ホーム、グループホームおよびデイサービスなど。
  • 国、都道府県、市区町村がハザードマップを作成し、水害などのリスクを明確にしています。そのハザードマップでリスクがある施設・事業所を、市町村の「地域防災計画」の中で要配慮者利用施設として記載します。記載された施設・事業所は、避難確保計画の作成および訓練の実施が必要になります。
  • 「地域防災計画」が市区町村のホームページに掲載されている場合は、ホームページで掲載されているかを確認できます。もし、「地域防災計画」がホームページに掲載されていない場合は、市区町村に問い合わせて確認します。

避難確保計画の作成状況

2017年に避難確保計画の作成と訓練が義務化され、2021年から訓練結果の報告が義務化されました。では、実際に、どの程度、計画作成と訓練が実施されているのでしょうか?

上記の国土交通省の「要配慮者利用施設の浸水対策」ホームページで、計画の作成状況(ただし、要配慮者利用施設が対象であり、介護・福祉以外に学校、医療機関も含まれます)を公開しています。2024年3月末時点で全国平均88.1%です。都道府県別の作成状況も合わせて以下に示します。都道府県により、作成状況にばらつきあります。一方、訓練の実施状況は、全国平均38.9%と半分以下の状況です。

避難確保計画の作成状況の推移
避難確保計画の都道府県別の作成状況

また、以下のページでは、都道府県別、市町村別の作成状況のリストも提供されています。

まとめ

水害の激化に伴い、ここ10年で水防法が3回強化され、2021年には、避難確保計画の作成および訓練の実施報告が義務化されました。水害などのリスクがある入所系、通所系の施設・事業所では、避難確保計画の作成し、利用者の安全を確保する必要があります。しかし、避難確保計画の作成では12%、訓練の実施報告では61%が、まだ実施していない施設・事業所があります。日本全国、どこでも、水害などのリスクがあるので、避難確保計画を作成し訓練を実施していない施設・事業所は、早急に作成し、訓練を実施していただきたいと思います。次回、実際の避難確保計画の作成手順について説明したいと思います。

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