介護BCPセミナーで「BCPができていない」とよく聞きます。今のBCP策定率は、筆者の経験から約6割と推定されます。理由は、調査で未回答が多く、BCP未策定の人が未回答になりやすいためです。今からでも、例示入りひな形でBCPを策定するのが良いと思います。
BCP作成は、長い道のり
厚生労働省は、2021(令和3)年4月の介護報酬改定で、介護・福祉BCP(業務継続計画)の策定を義務化しました。ただし、3年間の猶予措置が設定されました。2024(令和6)年4月から義務化になりました。また、2024(令和6)年4月の介護報酬改定で、BCP未策定に対し減算されることになりましたが、訪問系、居宅介護支援は、1年間の猶予期間が設定されました。
では、実際に、全部の施設・事業所でBCPが完成しているのでしょうか?
厚生労働省 介護給付費分科会-介護報酬改定検証・研究委員会 資料
まず、昨年度の厚生労働省の調査結果から見ていきましょう。2024年2月28日の第28回社会保障審議会介護給付費分科会介護報酬改定検証・研究委員会の資料で、昨年2023年7~8月のBCP策定状況の調査結果が公開されています。この調査は、全国の多くのサービス事業者を対象に調査した結果、約3割の施設・事業所がBCPを策定できていました。5割強が策定中、1割強が未着手でした。義務化まで約半年前でしたが、その後、1年後に、策定中の施設・事業所が、どの程度完成までこぎつけたのでしょうか。それを考えためにも、次に、一般企業のBCPの策定について、見てみましょう。
一般企業のBCP策定状況
今回、全国の一般企業(全ての業種。介護・福祉も含まれています)の大企業から中小企業を対象に調査している2つの統計を見てみましょう。1つは、内閣府が調査している統計と、もう1つは、日本最大の信用調査会社である帝国データバンクが調査している統計になります。一般企業に対しては、BCP策定が義務化されていませんので、その点は理解して以下の数値を見てください。
下記の不グラフには、載っていませんが、2008年から2年おきに調査しています。2008年は、BCP策定率が、大企業で18.9%、中堅企業で12.4%からスタートしています。16年かけて、このグラフにあるように徐々に増え、大企業で16.0%、中小企業で14.1%の増加ですので、年に0.9~1.0%程度しか増えていません。左側のグラフは中堅企業の推移です(小規模企業含まず)。右側のグラフは中堅+小規模のため、左側と数値が合いません。緑の星印は、大企業と中小企業の全体のBCP作成率です。
(2)帝国データバンク/事業継続計画(BCP)に対する企業の意識調
2016年から毎年、BCP策定状況を調査しています。8年かけて、この下記のグラフのように、大企業で9.6%、中小企業で4.2%の増加ですので、年に0.5~1.2%程度しか増えていません。緑の星印は、大企業と中小企業の全体のBCP作成率です。
この両方の調査から言えることは、策定中、検討中の比率がほとんど変わりません。つまり、策定中とか検討中の方が、1年とか2年たっても策定が完了していないことを表しています。換言すると、策定中のまま、完成までたどり着かず、策定途中で放置されているケースが多いと言うことです。
BCP策定調査の闇
さて、BCP策定率が、内閣府の調査と大きく異なっています。では、なぜ、こんなに違うのでしょうか?
それは、以下の表が物語っています。国や官公庁が行う調査では、回答率70~90%程度が一般的で、未回答が少ない状況です。それに対し、今回のBCP策定調査が、回答者に答えづらい点があるからです。具体的には、BCPを知らない方やBCPができていない方に、BCPのアンケート調査を行っても、未回答になる確率が増えるのは、当然の結果だと思います。逆に言えれば、普通の調査であれば、回答内容に関係なく、時間がないとか面倒だとかいう方が、未回答になるだけであり、回答結果に不自然な偏りが生じることはないです。そこで、この回答の偏りを考えると、一般の回答率(経験則として70%とします)と今回の回答率の差にあたる分は、BCP策定できていないと仮定すると、下記の「修正策定率」になります。
[修正策定率]=[策定率]×[回答率]÷[一般の回答率:70%]
調査 | 対象者数 | 回答数 | 回答率 | 策定率 | 修正策定率 |
厚生労働省 | 10,000人 | 5,200人 | 52.0% | 28.3% | 21.0% |
内閣府 | 4,934人 | 1,826人 | 37.0% | 45.5% | 24.1% |
帝国データバンク | 27,104人 | 11,410人 | 42.1% | 19.8% | 11.9% |
この表にあるように、内閣府の調査で、策定率45.5%が、「修正策定率」24.1%になります。帝国データバンクの修正策定率が低いのは、回答者の中で、検討していないと分からないが、50%もあることから、BCP策定ができていない方も、素直に回答しているために、修正策定値が低くなっていると思われます。そう考えると、一般的な企業や介護事業所の昨年度のBCP策定率は2~3割だったと考えられる。
現状の介護BCPの策定状況
では、BCP策定が義務化された現時点(2024年10月)では、BCP策定率は、どうでしょうか?
一般企業のBCP策定率が1年で数%しか増えないことは、参考になりませんが、義務化があると言っても、減算がスタートしていない状況では、介護BCPの策定率が、2~3割から1年で10割になるとは、思えません。では、どれくらいの方が、まだBCPを策定していないのでしょうか?次に、それについて考察してみましょう。
昨年、策定中の方が、ある程度BCPを策定できたと仮定して、策定していない方と、未回答の中で70%以下の部分の方は、いまだに策定できていないと考えることができます。そう考えると、現時点でのBCP策定率は、以下の式で計算できます。結果として、現時点でBCP策定ができていない施設・事業所が約4割あると推定されます。
[現時点のBCP策定率]=([策定済み]+[策定中])×[回答率]÷[修正した母集団]
=([28.3%]+[55.0%])×[52.0%]÷[70%]=61.9%
まとめ
今年の介護BCPの策定状況の調査結果が公表されていない状況なので、昨年度の調査結果から、現状の策定状況を考察してみました。その結果、現時点で約4割がBCP未策定であると考えられます。また、BCP策定と言っている施設・事業所でも、筆者が介護BCPのセミナーで「BCPが充分できていない」とよく聞かれることを勘案すると、4割という数字は過大な推計ではないと思われます。まずは、BCP策定できていない方やBCPが充分でない方は、厚生労働省の例示入りひな形を参考に策定、見直しを行うことが良いと方法です。またBCPが充分か否かは、別の記事に書きましたが、是非、訓練でBCPの内容を確認いただければと思います。