BCPの事前準備として、感染症の学習では、厚生労働省の「感染対策マニュアル」が活用できます。自然災害の学習では、災害リスクの学習に加え、自助の重要性と在宅避難を理解することが重要です。この点を解説している大垣市の「大垣防災」を事例として紹介して解説します。
BCP研修の概要
感染症や自然災害のBCPについて、職員へ教育する研修の内容をBCPのステップごとに整理したものが、下記になります。加えて各学習で使える教材を書きました。特に、介護・福祉サービスの場合、職員の確保が業務継続の最重要課題になります。そのためにも、職員自身の防災対策を教えることが重要です。①~⑥に分けて教材の使い方を説明していきたいと思います。
今回は、事前準備の研修で、「感染・災害対策マニュアル」をどのように活用し、説明するかをお話しします。
ステージ | 研修項目 | 教材(数字は投稿の回次数) |
---|---|---|
基本方針 | 基礎知識、基本方針、体制 | ①BCPガイドライン ◎施設・事業所のBCP |
事前準備 | 災害リスクの把握 災害対策の準備 | ②家庭の防災・市町村のハザードマップ ③感染対策マニュアル、災害対策マニュアル |
災害情報の収集 | ④防災アプリ | |
初動対応 | 安全確保 | ②家庭の防災・市町村のハザードマップ ③感染対策マニュアル、災害対策マニュアル |
安否確認 | ⑤携帯カード・防災カード | |
業務継続 | 参集基準 | ⑤携帯カード・防災カード |
サービス提供の継続 | ③感染対策マニュアル、災害対策マニュアル | |
その他 | 施設で備えている防災対策 | ⑥建物の安全性、食料・資機材等の備蓄 |
感染対策マニュアルを用いた研修
感染対策マニュアルの入手方法
介護現場における感染対策の手引きなどは、以下の厚生労働省のホームページに掲載されています。2023年9月に感染対策手引き(156ページ)が更新され、同年12月に感染対策マニュアル第3版(20ページ)と感染対策普及リーフレット第3版(8ページ)に改訂されました。
\ 感染対策マニュアル /
感染対策マニュアルの内容
感染対策マニュアル(入所系)を例にマニュアルの内容を紹介したいと思います。特に、新型コロナウイルス感染症が5類になったことで、換気の徹底が補強されています。
- 感染症とは
- どのように侵入・増殖するの?
- 感染症を防ぐには
- 1)感染源の排除
- 2)感染経路の遮断(手指衛生、環境消毒、マスクの着用、換気の徹底)
- 3)抵抗力の向上
- 感染症発生時の対応
- 新型コロナウイルス感染症の対応
- こんなとき、どうする?
感染対策動画の視聴
感染対策については、YouTube動画(18本)紹介されています。次のURLから再生リストとして一覧から探すことができます。
\ 介護職員のためのそうだったのか!感染対策! /
例えば、「介護職員のためのそうだったのか!感染対策!」(約10分)が、あります。手指衛生などは、繰り返し学習すると良いと思います。
災害対策マニュアルを用いた研修
災害対策マニュアルは、前回の投稿でご紹介した各自治体が作成している「家庭の防災」を使うこともできます。特に、地域の地震や水害などのリスクを把握するためには適しています。一方で、災害の準備として知っておくべき避難などの説明が足りていない「家庭の防災」があるのも事実です。そこで、研修で是非、学習してほしい点は、以下の点になります。下記の(1)~(3)の内容が書かれている「家庭の防災」も、あります。ここでは、事例として岐阜県大垣市の「大垣市防災ハンドブック」を紹介します。
\ 大垣市防災ハンドブック /
自助・共助・公助
公助には限りがありますので、自助が重要です。消防庁は、以下のように定義しています。
- 「自助」とは、災害が発生したときに、まず自分自身の身の安全を守ることです。この中には家族も含まれます。
- 「共助」とは、地域やコミュニティといった周囲の人たちが協力して助け合うことをいいます。
- 「公助」とは、市町村や消防、県や警察、自衛隊といった公的機関による救助・援助です。
避難の方法・手順
災害に対応した避難先を事前に調べておきます。
地方自治体によって、一時(いっとき)避難場所、広域避難場所を決めていることもあります。事前に避難場所避難所と避難経路を確認すべきです。一時(いっとき)避難場所は、近隣の避難者が一時的に集合して様子を見る場所です。集合した人々の安全が確保できるスペースのある学校グラウンド、近所の公園などが指定されています。
在宅避難
在宅避難とは、大規模な災害が発生した場合に、自宅に倒壊、焼損、浸水等の危険がなければ、 避難所へ避難するのではなく、自宅で生活を送る方法です。地震の際に、自宅にとどまれるように備えとして、水・食料も大事ですが、断水時のトイレの対応が必要です。
避難所の不足
都市部では、避難所が充分ありません。避難所へ避難できる人の割合も低く、加えて備蓄されている水・食料も少ないことも多いです。そのため、在宅避難が望まれています。
新聞記事などを紹介します。耐震性の高いマンションにお住いの方は、できるだけ在宅避難が望まれています。そのためには、「家庭の防災」に加え、住民の助け合いも重要になります。
NHK「2割しか入れない? 深刻化する避難所不足」
https://www3.nhk.or.jp/news/special/saigai/select-news/20200624_01.html
東京新聞「首都直下地震その時…避難所に入れるのは何割?食料は? 東京53自治体アンケートで分かった「備える力」」
https://www.tokyo-np.co.jp/article/351421
日本経済新聞「災害弱者538万人、福祉避難所入れない 市町村7割で不足」
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUE158910V10C24A2000000
まとめ
BCPの研修では、以下の教材を活用して実施すると簡単に実施することができます。
- 厚生労働省の「感染対策マニュアル」を使えば、入所系、通所系、訪問系の研修で活用できます。5類対応など最新の感染対策を知ることができます。
- 「家庭の防災」で災害のリスクを研修する。加えて、重要な自助が実現するために、在宅避難で必要な水・食料とトイレの対応が必要です。
- 都市部では、避難所が充分でないこと理解し、在宅避難、縁故避難についても検討しておくことが重要です。