介護・福祉BCPの研修で学ぶ最終回は、各ステージで説明できなかった2つを学びます。1つは耐震性で、建物の建築年で判断できます。もう1つは食料等の備蓄に関して、非常食以外の利用法、例えば、火を使わないパスタやインスタントラーメンの調理法を学びます。
BCP研修の概要
感染症や自然災害のBCPについて、職員へ教育する研修の内容をBCPのステップごとに整理したものが、下記になります。加えて各学習で使える教材を書きました。特に、介護・福祉サービスの場合、職員の確保が業務継続の最重要課題になります。そのためにも、職員自身の防災対策を教えることが重要です。①~⑥に分けて教材の使い方を説明していきたいと思います。
今回、最後として、その他ということで、建物の耐震性と食料などの備蓄について、どう説明するかをお話しします。
ステージ | 研修項目 | 教材(数字は投稿の回次数) |
---|---|---|
基本方針 | 基礎知識、基本方針、体制 | ①BCPガイドライン ◎施設・事業所のBCP |
事前準備 | 災害リスクの把握 災害対策の準備 | ②家庭の防災・市町村のハザードマップ ③感染対策マニュアル、災害対策マニュアル |
災害情報の収集 | ④防災アプリ | |
初動対応 | 安全確保 | ②家庭の防災・市町村のハザードマップ ③感染対策マニュアル、災害対策マニュアル |
安否確認 | ⑤携帯カード・防災カード | |
業務継続 | 参集基準 | ⑤携帯カード・防災カード |
サービス提供の継続 | ③感染対策マニュアル、災害対策マニュアル | |
その他 | 施設で備えている防災対策 | ⑥建物の安全性、食料・資機材等の備蓄 |
建物の安全性
建物の安全性は、どのように調べたら良いでしょうか?
厚生労働省の自然災害BCPガイドラインでは、「建築年を確認し、新耐震基準が制定された 1981(昭和56)年以前の建物は耐震補強を検討する。」と書かれています。耐震性のわかりやすい資料がないため、この投稿を参考にして頂ければと思います。建物の耐震性・安全性は、建築基準法で決められています。この法律は、以下のように大きな地震がある度に建物が地震に耐えられるように強化されてきました。
耐震基準改定 | 背景 | 基準、改正点 |
1950(昭和25)年 (旧耐震基準) | 1948年 福井地震 建築基準法が施行 | 【基準】 ・中規模地震(震度5強程度):倒壊は免れる ・大規模地震(震度6~7):基準なし(耐震技術未熟) |
1971(昭和46)年 | 1968年 十勝沖地震 | 【工法の強化】 ・鉄筋コンクリート造:柱や梁の鉄筋の基準強化 ・木造:基礎の工法の強化(独立基礎→布基礎) |
1981(昭和56)年 (新耐震基準) | 1978年 宮城県沖地震 | 【基準の強化】 ・中規模地震(震度5強程度):軽微な損傷 ・大規模地震(震度6強~7):倒壊は免れる |
2000(平成12)年 (現行基準、 2000年基準、 新・新耐震基準) | 1995年 阪神淡路大震災 | 【木造工法の強化】 ・鉄筋コンクリート造:大きな変更なし ・木造:地盤調査による基礎の設計、 接合部に金具取り付け、バランスを 取った耐力壁の配置 |
ポイントは、以下の2つになります。
- 先に書いたように自然災害BCPガイドラインに書かれている1981年以前の建物か否かが重要なポイントになります。1981年の改定で大規模地震(震度6強~7)でも建物が倒壊を免れるように設計することが求められました。それ以前は、中規模地震(震度5程度)で倒壊しない基準でしたので、大規模地震では倒壊する可能性が非常に高いので、対策が必要になります。
- 木造の住宅などでは、2000年の改定でさらに強化されました。そのため、木造の場合、2000年以前か否かを確認する必要があります。大規模地震の想定区域の木造家屋にお住いの場合は、耐震診断や耐震補強について自治体が補助金を出る場合もありますので、一度、調べられた良いと思います。
では、実際の地震で耐震基準が、どの程度有効かを見てみたいと思います。下の表は、阪神淡路大震災と熊本地震での家屋の被害状況です。
阪神淡路大震災の被害状況
熊本地震の被害状況
「大破」は、大きな柱が傾き、余震で倒壊の可能性があるので、避難生活が必要です。「中破」は、外壁がはがれ、窓や扉の開閉ができなくなるので、多くの場合、避難が必要になります。阪神淡路大震災と熊本地震では、被害の割合に大きな違いがあります。「大破」と「倒壊・崩壊」の発生率をまとめたものが下記の表になります。例えば、阪神淡路大震災に比べ熊本地震での大破以上の比率が、旧耐震基準では、1.6倍、新耐震基準では、2.3倍になっています。これは、熊本地震は、震度7が2回発生し、1回目の震度7では倒壊や大破しなかった建物が、2回目の震度7で倒壊や大破した建物が少なからずあったことが、影響しています。
耐震基準 | 阪神淡路大震災 (1995年) | 熊本地震 (2016年) | 熊本 ÷ 阪神淡路 |
旧耐震基準 (1981年以前) | 28% | 46% | 1.6倍 |
新耐震基準 (2000年以前) | 8% | 18% | 2.3倍 |
新・新耐震基準 (2000年以降) | ― | 6% | - |
また、耐震基準から見て安全である場合でも、定期的な建物の確認・維持が必要になります。例えば、木造家屋の場合、定期的にシロアリや木材の腐食を確認することをおすすめします。
食料・資機材等の備蓄
水や食料の備蓄は、最低3日、大規模災害が見込まれる地域ではできれば7日分の備蓄が推奨されています。水については、ペットボトルで備蓄できない場合は、受水槽・貯水槽の水の活用や、施設などの近くの浄水場や給水所から水をもらう方法があります。また、水と栄養補給の両方を一緒に行えるジュースやゼリー状の栄養剤は、発災直後の混乱時の食事に使える備蓄品になります。
食料については、非常食で全てを賄えない場合は、1つとして発災時に保管している果物や、そのまま食べられる食材を食べるのも1つの方法です。もう1つは、長期保存が可能なパスタやインスタントラーメンなどの食材を活用する方法です。インスタントラーメンを水で戻して食べる方法は、警視庁が公開しています。また、同じサイトでパスタを水で戻す方法も紹介されていますが、こちらは最後に1分程度、加熱が必要なため、ガスの備蓄が必要です。ただし、普通にパスタを茹でるよりは、大幅に使用するガスの量を減らすことができます。チョコレートなどの嗜好品を非常食として利用する方法もあります。
食料の備蓄内容からガスなどの熱源の備蓄方法を考える必要があります。施設にLPガスのタンクが併設されており、ガスがたくさん使える場合は、無洗米を備蓄し、炊飯する方法もあります。逆に熱源が難しい場合は、水で戻せるアルファ米の備蓄を増やすことになります。
これ以外の備蓄品については、厚生労働省BCPガイドラインの例示入り自然災害ひな形の様式6「備蓄品」に例を示しています。この備蓄品の例は、一般に考えられる備蓄品を網羅的に掲載していますので、必要か否かを判断し、備蓄品を選んでください。例えば、停電対策の備蓄品として、発電機(屋台で使っているようなコンパクトなタイプ)がありますが、発電できる電力容量が限られており、発電機によっては燃料のガソリンが必要になります。ガソリンは消防法で定められた危険物であるため、備蓄には法令を遵守しなければなりませんので、ご注意ください。
まとめ
今回は、建築時期から建物の耐震性の調べる方法を解説しました。1981年以前の建築か否かが1つの判断基準になります。木造建築の場合は、2000年以前か否かも確認が必要です。また、備蓄品については、インスタントラーメンなどを活用する方法を紹介しました。能登地震からもわかるように、大規模地震の場合、水や食料の配給が直ぐには開始できなかったり、充分な量を配給されなかったりすることが容易に想像できます。できるだけ7日分の備蓄を考えることがBCPとしては必要だと思われます。