能登豪雨から考える水害対応(2) 避難確保計画とBCP

能登豪雨を事例に、水害時の避難確保やBCPの机上訓練について、5回で連載します。今回は、水害などから高齢者を守るための避難について、体制、手順を記述した避難確保計画の作り方のポイントと説明します。また、BCP(業務継続計画)との相違を解説します。避難には垂直避難と水平避難があり、浸水深から避難方法を決める点も解説します。

➊避難確保計画とは
➋避難確保計画とBCPの違い
➌能登豪雨の実態
➍避難確保計画の訓練
➎能登豪雨を用いた机上訓練

目次

避難確保計画とBCPの違いは?

避難確保計画とBCP(業務継続計画)は、何が違うのでしょうか?

法律的な根拠などは、厚生労働省の自然災害BCPガイドラインに書かれています。

計画防災計画 災害リスクを把握し、災害時の避難等を訓練する業務継続計画(BCP) 防災計画の避難後に 業務を継続する
消防計画避難確保計画非常災害対策計画
主な 目的身体、生命の安全確保 ・物的被害の軽減身体、生命の安全確保に 加え、優先的に継続、 復旧すべき重要業務の 継続または早期復旧
考慮すべき事象拠点がある地域で発生することが想定される災害自社の事業中断の原因となり 得るあらゆる発生事象
根拠消防法水防法,土砂災害警戒区域等における土砂災害防止 対策の推進に関する法律 津波防災地域づくりに関する法律厚生労働省令 人員、設備及び運営に関する基準等厚生労働省令 人員、設備及び運営に関する基準等
対象 施設等多数の者が出入し、勤務し、又は居住する防火対象物浸水想定区域、土砂災害警戒区域、津波浸水想定内に所在し、市町村が作成する地域防災計画に記載のある要配慮者利用施設(社会福祉施設等)入所・通所系事業所、小規模多機能型居宅介護、有料老人ホーム・サービス付き高齢者向け住宅介護事業所等
対象の災害火災風水害、土砂災害想定される全ての災害自然災害、感染症
義務消防計画の作成、所轄消防長への提出。 消火、通報、避難の訓練の実施・報告避難確保計画の作成、市町村への提出。 避難訓練の実施・報告。非常災害対策計画の作成。 避難訓練の実施。業務継続計画の作成。 研修・訓練(シミュレーション)の実施。研修・訓練は、入所:年2回以上、通所、訪問:年1回以上(感染症も含む)。

この表のように、大きな違いは、以下です。

  • 計画作成の対象になっている施設・事業所が、限定されているのと、全ての施設・事業所が対象なのが異なります。
  • 避難確保計画は、水害のみが対象なのに対し、BCPは地震を含むすべての災害が対象なのが異なります。
  • BCPは、計画の作成と訓練の実施までですが、避難確保計画は、計画書と訓練の実施報告書の市町村への提出が必要です。

では、避難確保計画とBCPの作成手順の中での違いを見てみたいと思います。

ステップ避難確保計画BCP(地震)
事前準備/リスク把握ハザードマップで把握する
①垂直避難、水平避難を決める
ハザードマップで把握する
事前準備/体制②4班の体制
③タイムラインの確認
大きな体制でも可能
事前準備/備蓄品④避難用の備蓄品加えてサービス継続用の備蓄品
事前準備/避難経路⑤避難経路図の作成-(特に決まりなし)
初動対応/情報収集⑥警報などを収集する
初動対応/安全確保・安否確認移動手段を明記したリスト
⑦避難者一覧
利用者の安否確認リスト
業務継続/サービス継続サービス継続が最も重要
業務継続/地域との連携検討する
その他/訓練避難時間を訓練で計測する
⑧避難誘導の時間等を決める

では、①~⑧の避難確保計画の特徴的な点を中心に避難確保計画の作成方法を、次に説明したいと思います。

避難確保計画の策定方法

避難確保計画は、どのように作れば、良いでしょうか?

避難確保計画の作成方法は、国土交通省の「要配慮者利用施設の浸水対策」ホームページに掲載されています。このページには、記載例が書かれている(全面的に具体例が書かれている)ひな形が公開されています。また、eラーニング教材や講習会の資料や動画も公開されているので、参考にしていただければと思います。これ以外には、市区町村で動画や教材を公開していることもあります。ただし、一部の市区町村では、独自の書式などで提出することを求めていることもありますので、当該の市区町村のホームページなどで確認してください。

まず、避難の仕方を理解する必要がります。避難には、垂直避難(屋内安全確保)と水平避難(立ち退き避難)の2種類があります。垂直避難では、建物の上層階へ避難する方法です。水平避難は、建物から避難所などの別の建物へ避難する方法です。

事前準備

①垂直避難、水平避難を決める

最新のハザードマップでは、以下に示す色で浸水深(洪水時の水の深さ)を定義している。また、絵にあるように、3mで1階が浸水し、5mで2階が浸水するので、浸水する階より上の階へ避難する必要がある。また、土砂災害の場合は、基本的に水平避難します。加えて、ハザードマップの色使いは、下記のものが最新(1000年に一度の水害の想定)のものです。しかし、旧来のハザードマップ(100年に一度の水害の想定)では、異なる色合いになっていますので、最新のハザードマップがないか確認が必要です。

ハザードマップで確認した災害リスクを下記の様式に記入します。ここで重要な点は、洪水以外のリスクについても、必ず確認すると言うことです。全てのリスクをハザードマップで確認しましょう。

②推進体制(4班の体制)

 洪水、高潮、津波、土砂災害ごとにページが分かれており、各班の役割が書かれています。加えて、各警戒レベルでの役割も書かれていますので、確認しましょう。また、各警戒レベルに対応した注意報、警報については、次のタイムラインに書かれています。

③タイムラインの確認

災害時の情報収集とその時の行動内容をまとめたものが、タイムラインになります。タイムラインの例が書かれているので、確認してください。

④避難用の備蓄品

避難確保計画の様式では、備蓄品についても、例示されています。内容を確認し、削除、追加して構いません。

⑤避難経路図の作成

垂直避難、水平避難の経路図を下記を参照に作成します。特に注意すべき点は、水平避難の場合、複数の避難ルートを検討することが重要です。

初動対応

⑥警報などの収集

ここでは、情報を収集するためのツールと、情報した際の情報伝達について書かれていますので、確認してください。

⑦避難者一覧

利用者の一覧表ですが、徒歩、車椅子などの対応状況に応じて作成することをお勧めします。実際に避難する際に、サポートの必要度の低い人から避難させる方法もあるので、利用者毎の移動手段を整理しておきます。

その他

⑧避難誘導の時間等を決める

避難に関する時間を記入する必要ありますので、一度、避難訓練を実施し、避難時間を計測するのが良いでしょう。

BCPへの反映方法

避難確保計画とBCPの違いを説明してきました。水害などの発生が懸念される状況から避難までは、避難確保計画で対応できます。また、避難先で介護サービスを継続するためには、BCPの業務継続が役立ちます。両計画を無理に一本化する必要はありません。ただし、以下の点については、検討しておくことが必要です。

  • 避難先で業務を継続できるように、食料や介護用品を避難先に備蓄する必要があります。
  • 避難した直後から課題になる利用者の休息をどうするか考えておく必要があります。具体的には、寝具が必要になりますが、ベッドを用意するのは難しいので、筆者はエアマットをすすめています。エアマットだと保管がコンパクトで、簡単に膨らますことができます。
  • パソコン等の重要な情報の避難も考えておきましょう。

まとめ

水害などのリスクがある施設・事業所で、地域防災計画に要配慮者利用施設に登録されている場合は、避難確保計画を作成する必要あります。今回、避難確保計画の作成方法を簡単に説明しました。特に、避難確保計画では、避難先での業務継続が充分検討されていないので、BCPで業務継続を考える点も示しました。さて、避難確保計画ができたら、次に避難訓練を実施します。避難訓練の実施方法については、次々回の第4回で説明したいと思います。次回は、能登豪雨で実際に何が起こったかを説明したいと思います。

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